内藤が超名曲の常識を斬る‼
Correcting big mistakes in famous pieces


「第九」ベートーフェン交響曲第9番《合唱》第4楽章

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4楽章終結部近くのメトロノーム数字と、その基準になる音符単位も、甥のカールによって山勘で付けられた? 何故それらが信用に値しないのか、お解り頂き、指揮者自からの判断によって数字等を決めることが、唯一最良の手段としてお勧めする!

前記③章の(図-1)のズサンな書き込みがなされた会話帳のコピーを見ると、このズサンなメモ用紙だけを基に、多くの数字とその数字の基準になる音符等を、よくぞ献呈譜に書き込み、その書き込みだけを頼りに、当時の出版社はよくぞ現在にまで繋がるメトロノームの数字付出版譜を刊行できたものだと、そのズサンさと大胆さに驚かされる。しかし最初に献呈譜に書き込んだカールも、4楽章の終わりの部分にまで至ると、とうとう会話帳に書かれた数字が、いったい総譜のどの部分に該当し、また何分音符に対する数字なのか、山勘ですら決められなくなってしまったのだろう。
 すなわち、そのズサンな書き方の会話帳を基にして書き込まれ(あるいは書き込まれるべきところに書き込まれなかった?)た、4楽章の最後百数十小節のメトロノームの数字に関しては、全く当てにならない(テンポ等が会話帳に明瞭に書かれていた ♩=132を除き)と言わざるを得ない。楽譜に印刷された数字のどれもが間違っている可能性すら考えられる。その疑わしいとされる根拠を以下に示す。
 カールにとって、会話帳に殴り書きされた最後の部分で、総譜への書き込み先が不明になって残っている数字が、曲の終わりまでに3つ(60、80、88)あった(図-1)。彼は、それらを献呈譜に書き込まなくてはならなかったが、それらを書き入れるべき箇所と、さらにはその数字が何分音符に対応するものか、会話帳を見る限り何も書かれておらず、まさにマーチのテンポ84の基準になる音符を山勘で決めて書かなければならなかった時と同じ状況だったのである。  しかも書き込んだ翌日には献呈のため、WilhelmⅢ世に向け送付しなければならないという、切羽詰まった状況は変わらず、彼は残された3つの数字の中から何故か唯一60だけを916小節(Maestosoの小節)に ♩=60と、おそらく何の根拠もないまま書き込み、とうとうそこで作業を放棄してしまった。すなわち残る80と88は会話帳に残されたまま、使わずじまいになってしまったのである
 ベートーヴェンは、当然この60の数字も含めた3つの数字と、それぞれに対する基準の音符が正しい箇所に書き込まれることを望んでいただろう。しかし、結果として唯一書き込まれた ♩=60も、それに従った場合、次小節(917小節)からの弦楽器がアクロバット的で滑稽なほど速くなってしまい、Maestosoの指示に著しくそぐわない。すなわち、ここでもマーチのテンポ指示(331小節)が倍違っていたのと同様、60のテンポ数字に対する基準の音符が ♩ ではないのではないかという疑いが湧いてくる。私は♪に対する数字であると解釈した方がMaestosoに符合しているとの考えから、多くの指揮者同様 ♩ を無視し、♪=60を採用している。この様にこの近辺のテンポ設定は、混乱したまま指揮者が山勘で決めたテンポに拠り、現在まで演奏されてきた。ベートーヴェンのテンポ設定が悪かったのではなく、彼がカールに数字のみを伝え、単位になる音符や、それがどの小節に該当するのかを伝えなかったか、あるいは、それらをカールが会話帳に書きそびれたかのどちらかの原因によるものだろう(注4)。結果としてカールが浄書総譜に数字を書きうつす段階になって、彼は情報不足のまま書き入れることを放棄したのだろう。

 以上の事情をご理解いただいた上で、賢明なる指揮者の皆様が、会話帳に残されたそれら3つの数字と、総譜の終結部分でテンポ変化の指示が書いてあるpoco Adagio、Maestoso、最後のPrestissimoの3か所を吟味し、既成の出版譜を妄信することなく、自らの賢明なる判断によって、基準になる音符(♩=か♪=か等)や数字(60,80,88)また、それらを付ける上記3箇所を決めることが、ベートーヴェンの本意に近い結果を生む最良の選択であると私は考えている。
 なぜなら、彼は第1番から第8番までの全交響曲に、後から(1815年以降)メトロノーム数字を付ける際、どの数字も速度に関する記号(Allegro等)が書かれている箇所にのみに書き込んでいた故、4楽章の終結部でも上記3か所に、残る3つの数字が付けられるはずであったのではないか、と高い確率で推測されるからである。
 少なくても素人であるカールよりは、我々本職の指揮者の推測の方がより良い結果を生むであろう。また会話帳を見た限り、最後の後奏部分のPrestissimoには、全音符=80または88を付けるようベートーヴェンがそれらの数字を書き取らせたような雰囲気(跡)が窺われる。Bärenreiter社は全音符=88を独自の判断によりカッコつきで採用している (注5)。  
(注4)献呈稿への修正書き込み;メトロノームの数字を決める前に、ベートーヴェンはすでに以下の状況を経ていた。つまり初演当時、既述の如く彼自身がステージ上に陣取り、つきっきりになって指揮者に対し、現在流通しているテンポとは全く違うテンポ、すなわちマーチ部分は付点2分音符=84に相当する速いテンポを厳しく指示するなどしているうちに、彼自身全曲に対してのイメージが確固たるものになって行った。そして献呈稿に最後の修正を加えた後、当時彼の中で出来上がっていたテンポのイメージに基づき、メトロノームで測定したテンポ数字をカールに書き込ませた。この献呈稿に書き込まれた修正箇所はたくさんあるが、1章の別紙【表-①】に注意書きしたように、4楽章冒頭部のうち、3楽章の冒頭を否定する箇所のテンポ表示(65~)が、当初他の箇所同様 TempoⅠPrestoであったのを、TempoⅠAllegro に修正、また4楽章851小節に書いていたPrestissimoをPrestoに変更する他、3楽章99小節のLo stesso tempoをpiù Adagioへ変更する等が、変更箇所の例である。彼の生前に自らが修正を施した最後の総譜でもあるこの版は、自筆譜、初版と共に、指揮者にとって研究上必須の資料である。ショット社による初版(第2稿・1827年)の総譜や、このWilhelmⅢ世への献呈稿をご覧になられたい方はメール等でご一報くだされば、メール添付等で無償でお送りする所存である。  
(注5)私も同じく全音符=88を採択している。そして、Maestosoの小節は、♩=60ではなく♪=60を、そしてその前のpoco Adagioの2か所にはおそらく♩=80をベートーヴェンは選択していたのではないかと私は推測している。これでベートーヴェンの希望した数字はすべて譜面上に反映されたことになる。私は音楽的に極めて自然な演奏になると実感している故、お薦めである。他に、Maestosoを♪=80、poco Adagio部分を♩=60も可能性としては有り得る。    
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